日本の米が放射線育種米に置き換わる?

 先月は日本の食料自給率について触れましたが、今回は「お米」について大きな動きがある事が分かったので、お伝えしたいと思います。

NPO法人民間稲作研究所がYouTubeで「放射線育種米がやってくる!?」という題で話されていました。こちらの研究所では、化学合成した農薬や化学肥料を一切使わず、自然環境を活かし利用することで、日本の主食である米を効率よく生産する方法を研究されています。

 近年様々な災害が増えていますが、有機的な農業(自然農法、自然農、自然栽培など)はこれらを止められる力があると思われます。放射線育種米は大問題ですが、メディアではほとんど取り扱われていません。賛否両論があるにもかかわらず、さらに日本にとって米は生命線と言うべき食料です。全国民で考え、議論していかなければならない問題です。有識者が安全だから大丈夫という考えだけで進めてはならないと思います。

2025年(令和7年)から秋田県で「あきたこまち」が「あきたこまちR」に切り替わることがホームページ公開されています。皆さんはご存知でしたでしょうか。

農林水産省は、2018年にお米主要品種を低カドミウム米にする指針を発表しました。そしてそのとき、すでに100品種を超える後代交配種を開発済みとしていました。これらを開示請求すると、開示された品種名は18品種のみで、黒塗りされた数を数えると202品種あり、2025年に完成予定の品種は21品種あるようです。全国300品種のお米を放射線育種米に置き換える計画が進んでいると考えられます。

日本ではほとんどカドミウムの基準値を超えるお米は無いのに、これほど急いでやる必要はあるのでしょうか。これらの交配種は、カドミウムに加えマンガンも吸収されにくくなり、ごま葉枯病などの病気になりやすくなります。人に関してはマンガン不足(注1になると、血糖値を高める、血中脂肪酸を増加させる、骨などの発育不全、傷の治りが遅い、糖尿病や性機能の低下、動脈硬化、麻痺、けいれん、めまい、難聴、運動障害などの症状があらわれることがあります。

注1)マンガン ~体に必要な「ミネラル」ってなんだろう??~|日本成人病予防協会
https://www.japa.org/tips/kkj_0807/(シャロームのサイトを離れます)

放射線育種米の導入

「育種」とは、品種改良や新品種を作ることです。「原子力の平和利用」という名目で1950年代からガンマ線照射などにより遺伝子を破壊し、変異した品種が作られてきました。しかし、世界のほとんどの施設は閉鎖されています。ガンマ線照射は、重イオンビーム(注2)は加速器を使い、施設はコンパクトになっています。重イオンビームは、集中する分ガンマ線照射よりも破壊力が大きく、その差を例えると、小銃と大砲の差があります。

これにより、カドミウムをほとんど吸収しないイネを作出しました。では放射線育種米が導入された場合、何が変わるのでしょうか。(NPO法人民間稲作研究所より)

農法・環境

① 水生生物や環境に影響が

ヒ素対策(注3として、*中干し(注4期間を長くする農法が推奨されれば、淡水生物の生存に影響を与える(カエル、トンボなどがいなくなれば害虫被害が多くなり、農薬散布量が多くなる。生態系への影響も懸念される)→中干し以外のヒ素対策が必要になります。

② 環境の激変に耐えられるのか

同じ遺伝子が壊れた品種ばかりになった時、環境の激変に対応できなくなる可能性を想定する必要があります。

③ カドミウムが減らない

低カドミウム米の栽培によって、水田からカドミウムが減ることは期待できなくなる。他の方法を使って、カドミウム低減に努めなければ、地域のカドミウム、ヒ素汚染は減らないでしょう。

④ 有機農業

有機農業では、遺伝子組み換えや放射線照射は禁止されています。ただし、明示的に放射線を照射した種子の使用を禁止しているのはEU(ヨーロッパ連合)の有機認証基準のみです。

放射線育種米だけになってしまえば、日本では有機米の生産はできなくなります。
農水省は放射線育種でも有機認証可能だとしています。果たして、それが世界的な支持を得られるのでしょうか?

注2)量子科学技術研究開発機構 量子ビーム科学部門 高崎量子応用研究所放射線生物応用研究部 大野 豊(qubs-techoffice@qst.go.jp
https://www.qst.go.jp/chizai-map/qsttest/53.html(シャロームのサイトを離れます)

注3)農研機構「コメのヒ素低減のための栽培管理技術導入マニュアル~コメの収量・品質への影響を抑えつつ、ヒ素を低減するために~第2版」より
土壌中の溶存ヒ素濃度と溶存カドミウム濃度は、水管理(湛水、落水)に対しトレードオフの関係にあります。湛水(水を溜める)するとヒ素吸収が多くなり、落水(水を抜く)するとカドミウム吸収が多くなります。

注4)種まきから85日目頃、田んぼの水を抜いて、土にヒビが入るまで乾かす作業で、稲の成長を調整するために必要な作業。

「あきたこまちR」に関する有識者の見解

問合せ先:秋田県 農林水産部 水田総合利用課 土壌・環境対策班(TEL:018-860-1785

1 放射線育種について

【質問1】「あきたこまちR」は放射線育種による品種?
【回答】
  • 放射線突然変異に由来する「レイメイ」、「北陸100号」、「関東79号」の交配育種による後代品種は、広くその後の品種改良に活用されており、現在の日本の作付け上位品種20品種のうち14品種が放射線突然変異品種・系統に由来するものである。
  • これらの交配育種による後代品種について、それぞれの育成地では「放射線突然変異種」による品種という整理・公表はしていない。
  • また、「あきたこまちR」は「コシヒカリ環1号」に、何回も「あきたこまち」を繰り返し交配(かけ合わせ)して育成している。これは元の品種をピンポイントで改良したいときに用いられる一般的な手法(戻し交配)である。
  • このため、「あきたこまちR」を放射線育種による品種と呼ぶのは適切ではないと考える。
【質問2】「あきたこまちR」のメリットは?
【回答】
  • 日本よりもコメのカドミウムの基準が厳しい諸国も少なからず存在する。そうした国へのコメ輸出や、渡航者へのインバウンド(注5提供を考えると、「あきたこまちR」の「極低カドミウム」の特性は大きなアピールポイントになると考える。

注5)海外から日本に訪れる訪日外国人観光客

【質問3】放射線育種した作物の事例は?
【回答】
  • 放射線による突然変異育種法は、70年以上前から用いられ、世界でも3,000以上の品種の育成に用いられている。
  • 日本でも、1970年頃に東北地方の主力品種であったイネの「レイメイ」(前述)、酒造好適米で現在でもたくさん作付けされている「美山錦」などが放射線による突然変異により育成されている。果樹(梨)などでも放射線突然変異で病気に強く改良された品種が普及している。
  • 1960年代に育成された放射線突然変異品種「レイメイ」は、最大の普及面積は14万ヘクタールに達し、その後代の「アキヒカリ」等とともに、一時代を東北地域の主力品種として地元で消費され、大量に首都圏の他各地に出荷されていた。
  • また、「コシヒカリ」のガンマ線突然変異である、北陸100号、関東79号の後代品種の「キヌヒカリ」、「ミネアサヒ」も、長年、地域の良食味品種として栽培されているほか、やはりガンマ線変異由来の「美山錦」(酒米として作付け全国3位)と、その後代品種は酒造原料米として数十年にわたり使用されている。
  • 突然変異品種の食経験は十分に蓄積されていると言え、過去にそれで問題も生じていない。
【質問4】海外の放射線育種の状況は?
【回答】
  • 前述のように世界的に見て既存の突然変異品種は3,000種以上にのぼるという報告もある。突然変異品種を作っているのが日本だけという指摘はあたらないと考える。
【質問5】「コシヒカリ環1号」の開発で使った重イオンビーム育種の他の事例は?
【回答】
  • イオンビーム等の粒子加速器による突然変異研究は、理化学研究所の前身研究所で戦前から開始され、イオンビームによる突然変異作出は、1990年代初頭から、基礎研究を重ね実用技術として完成されていったものである。
  • 最近では、イオンビーム突然変異の清酒酵母を用いた日本酒が数多くの酒造メーカーから製品化され市販されており、イネ以外に各県で野菜等の育種にも使われ、実用化を目指した試験が重ねられていると聞いている。
  • 放射線による突然変異に用いられるガンマ線やイオンビームは厳密に管理された施設で行われる。こうした放射線はがん治療や医療機器の滅菌にも用いられることでわかるように、照射後に放射性物質が生物などに残留することはない。
  • 突然変異によって育成された品種については、安全性も含めて通常の品種と同等と考えられ、数十年にわたり区別なく扱われてきた。
  • 現在では、突然変異で遺伝子のどの機能が変わったかどうかも調べることができる。また、新しい品種は何年も栽培試験を重ねて、農家の田んぼで栽培して問題がないことを確認してから、初めて普及にうつされる。これらの事実から、安全性や栽培特性に問題が無いことが確認される。

2 マンガンについて

【質問6】マンガンの吸収が少ないことで、ごま葉枯病等が出やすいのでは?
【回答】
  • ごま葉枯病については、現在は発病地域も限られており、特に発病の多い地域を除き「あきたこまちR」の普及に際し大きな問題であるとは考えにくい。
  • ごま葉枯病の高度抵抗性品種も近年育成されており、次世代の低カドミウム品種は抵抗性導入によりこのデメリットを打ち消せる可能性がある。
【質問7】マンガンの吸収が少ないことで、食事でミネラル不足になるのでは?
【回答】
  • マンガンは、様々な食品に広く含有されているミネラルであること、米の含有率がもともとそれほど高くない(特に白米)。
  • 一方で、過剰摂取による弊害も起こりえること等を考え合わせると、「あきたこまちR」のマンガン含有率が多少下がったとしても、栄養を摂取する上で大きな問題になるとは考えにくい。

3 自家採取について

【質問8】「あきたこまちR」は自家採取が可能?
【回答】
  • 基本的に、25年以内に育成・出願された品種は全て、登録品種で自家採取には一定の規制がかかる品種である。
  • また、登録品種だから自家採取が全く不可能というわけではなく、育成者の許可を得れば可能である。「あきたこまちR」についても、同様の扱いとなると考えられる。
  • なお、「あきたこまちR」は、カドミウム低吸収の特性を維持するため、自家採取を禁止していると考える。
  • 優良な種苗供給のためには定期的な種子更新が必要であり、進歩した技術で開発された品種を、きちんと許諾を受けた供給者から入手した信頼の置ける種苗を用いて生産することこそが、農業の発展につながると考える。

4 品種名について

【質問9】流通上で品種名はどうなる?
【回答】
  • 「あきたこまちR」のように、原品種の一部の特性だけが改良され、その他の形質は同じという品種は「同質遺伝子系統」と呼ばれる。
  • 農産物検査法上は、従属品種、銘柄設定上は「品種群」として同じ品種として扱うことができる。
  • このような「同質遺伝子系統」には前例があり、新潟県の「コシヒカリBL」や愛知県の「あいちのかおりSBL」岐阜県の「ハツシモSL」は県単位で元品種から品種の転換が行われ、いずれも元品種と同じ銘柄で流通している事例が既にある。

5 有機農業での対応について

【質問10】放射線育種由来の米であっても有機認証は可能?
【回答】
  • 放射線等の突然変異に由来する後代品種は、日本で普通に栽培され普及している。従って有機栽培認証を受ける上で何ら障壁はない。
  • 世界的に見ても、突然変異に由来する品種を有機認証の対象にしないという規制は存在しないのではないかと考える。

6 カドミウム対策について

【質問11】「あきたこまちR」を導入しても、汚染地域の土壌からカドミウムが減ることにならないのでは?
【回答】
  • 「あきたこまちR」を栽培することによって、少なくとも米からのカドミウム摂取量は大幅に低減でき、リスクを下げられる。
  • また、通常は基準値を下回り通常出荷されている地域の米が、気象や栽培条件により基準値を超過してしまうリスクを大幅に減らすことができる。
  • 土壌中カドミウムを低減する対策は必要であるが、客土工事などは多大な予算と期間がかかり、完了するまで当該地域で米に含まれるカドミウムのリスクが続くことを考えると、日本人の摂取量の半分近くを占める米からの摂取量を低減することは、当面の対策として十分意味がある。
【質問12】インドのケララ州で栽培されている「Pokkali Rice(ポッカリライス)」という在来種の稲の特性を使ってカドミウム対策に活用できる?
【回答】
  • Pokkali Riceがカドミウムを根に蓄える特性があるとしても、それを土から掘り出して処分するのは、客土と同じかそれ以上のコストがかかるので、到底実用的な方法とは考えにくい。
  • 外国のイネ品種を日本の育種素材に用いること、それも起源の古い在来種を用いた場合は、不良な形質を取り除く育種の困難さが予想される。
  • 不良形質(食味、品質等)の随伴とその除去にかかるであろうコストと時間は、「コシヒカリ環1号」や「あきたこまちR」の弱点の改良に要するそれと比べて、格段に大きいものと考えられる。
  • 以上から、Pokkali Riceの特性は、基礎研究の対象としては興味深いが、今すぐにコシヒカリ環1号による育種プログラムの代替になるとは考えられない。

おわりに

このように水稲育種の有識者の見解NPO法人民間稲作研究所との見解が対立した形になっていることがわかりました。

前者は育種開発をすることによってより良いものが作れると考え、後者は自然環境を活かし利用することで良いものが作れると考え研究されています。今は正しいと思っていても、後々問題点が見つかる可能性もあります。取り返しのつかないことにならないよう、バックアップもしながら慎重に開発していただきたいと思っています。対立ではなく両輪で歩んでいけることを願います。