4月になると、例年のことであるが、桜の話題がニュースを飾る。今年の開花は、例年より早いようで、東京が3月末には開花、福島でも4月に入ると咲き始めた。4月末には、青森、北海道まで前線は進んでいく。桜前線に合わせたのんびり日本縦断旅行というのも一興では。暗い話題の多い中で、桜の華やかさと花の下での人々の笑顔は、観る者の心を和ませる。

桜の花は、冬の大地に春の訪れを伝え、大地を目覚めさせ命の躍動を開始する。冬を耐えた植物たち、虫たち、そして動物たち、人間も。春の日差しは、すべての生き物たちに命を吹き込んでいく。

福島市内からは吾妻山が良く見える。春の訪れとともに、山の斜面に雪ウサギが現れる。真っ白だった雪山も春の日差しとともに雪は消え、残雪が大きな耳を持つウサギの形をあらわす。福島では、このウサギが現れると、春の農作業を始める印と言われている。これを種まきウサギと呼び、春の訪れを告げるものとして親しまれてきた。季節の変化とともに大地に生きてきた先人たちは、周囲の自然の変化を見ながら季節を感じ、生活の中に生かしてきた。全国にその土地ならではの言い伝えがある。生活する大地は、生活する場であると同時に生産活動の場でもあり、それが一体になっていた。自然の営みに溶け込んだ生活の営みがあった。

現代の私たちの生活を見てみると、冬は暖房のなかで冬を越し、季節感を失った食料を食べ、仕事の場は、家庭生活の場と分離され親の仕事の現場をこどもが知る機会はほとんとない。生活の都市化は、生活する人々の自然観を大きく変えている。大地の営みの中で生かされてきた人間の歴史の記憶を呼び覚ますことから未来は始まる。桜の花とともに大地の雄大さを思い返す機会となればと思う。